特集 「たぬき」が見守る 山あいの駅 ~大井川鐵道神尾駅を訪ねて~
たぬき駅化計画で誘客
静岡県島田市に本社を置き、大井川流域の大井川本線金谷―千頭間、井川線千頭―井川間での鉄道事業を営む大井川鐵道。昔懐かしいSLや大手民鉄で活躍した名車による列車運転は、鉄道ファンをはじめ多くの観光客の人気を集める。同社では今年1月から、本線のさらなる魅力付けの一環として神尾駅の「たぬき駅化計画」に着手した。山あいの無人駅を静かに見守り続けるたぬきの置物に、カメラを手にした来訪者の姿が見られる。
門出駅を出発すると、それまでの住宅地などの風景から山あいを縫うようになった。しばらくすると列車は神尾駅に到着した。1面2線のホームに降り立つ。駅東側の眼下に望む大井川の流れは日本の原風景そのもの。ゆっくりとした時間(とき)だけが過ぎていく。
山の中腹部に位置する神尾駅は無人駅だが、門出駅側のホーム端にたぬきの置物が3体、のり面にも多くのたぬきの置物があった。1日上下各4本が発着する列車を見つめるたぬきに、どこか不思議な世界を感じる。
神尾駅のたぬきの置物は、同社の初代SL専務車掌だった石原〆造さん(故人)が乗客から寄進されたお金(チップ)をもとに、信楽焼のたぬきの置物を同駅に設置したことが始まりとか。その後、噂を聞きつけた全国各地の収集家などから、たぬきの置物が同社に寄贈され、その数、大小合わせて約40体にも上る。
〝他を抜く〟 ご利益に期待
SL運転やユニークな駅リニューアルなどで話題を集める同社では、観光路線としての新たな誘客策として神尾駅の「たぬき駅化計画」に今年1月から着手した。ちなみにたぬきは「他を抜く」とも言われ、勝負事などにも縁起が良いとされている。鉄道の地方線区における経営状況が厳しさを増す中での起爆剤に――と同社ではたぬきのご利益に期待を寄せる。
さまざまな表情を見せるたぬきの置物。ホーム近くには、体の一部が金色に塗られた「ゴールデンたぬき」も置かれている。同社では駅名標を金色ベース、赤い文字のデザインに一新した。
「たくさんのたぬきで埋め尽くして幸せいっぱいの駅となるよう目指していきます」と同社ではPR。訪れたこの日もカメラを手にした観光客が列車から降りていった。
人気〝開運〟たぬきっぷ
神尾駅の「たぬき駅化計画」に合わせて発売しているのが、企画乗車券の「開運たぬきっぷ」。金谷―神尾間1日乗り放題で大人880円、子ども440円。
金谷駅、新金谷駅、家山駅、新金谷駅前SLセンター(プラザロコ内)、「TOURIST INFORMATION おおいなび」(門出駅隣接)で取り扱っている。
また、合格、門出、神尾駅の入場券(ランダムで1枚)と、おみくじをセットした特別なガチャ(1回200円)をプラザロコで発売。たぬきのイラストが特徴で、中には「駅名が金色に箔(はく)押しされた合格駅」の入場券もあるという。運試しに購入してみるのもいい。
レトロ感ある多彩な車両 大井川鐵道
大井川鐵道では、レトロ感あふれるSLや大手民鉄各社で活躍した車両が今も〝現役生活〟を送っている。
本線用の蒸気機関車は6両あり、C10形8号機、C11形190号機の2機が運用中。C11形227号機、C56形44号機、C12形164号機は運休。C56形135号機はクラウドファンディング資金をもとに動態化に向けて整備中だ。C12形164号機は新金谷駅構内の転車台で屋外展示されている。電気機関車は3両でE10形、E31形が運用中、ED500形の運用は休止している。
電車は、近畿日本鉄道南大阪線で活躍した16000系、南海電気鉄道高野線の急行・特急用として一世を風靡(ふうび)した21000系、東急電鉄や十和田観光電鉄で運用された7200系があり、各駅停車の普通列車として沿線住民の通勤・通学輸送を担う。
客車は昭和初期に製造された旧国鉄車両をラインアップし、SLがけん引する。タイムスリップしたような古めかしい車内空間は団体観光ツアー客の人気を集めている。
待たれる早期の全線復旧
2022年9月の台風で甚大な被害を受けた大井川鐵道。昨年10月に本線家山―千頭間のうち家山―川根温泉笹間渡間が復旧。金谷―川根温泉笹間渡間での運転を再開したが、千頭までの運転再開の見通しは立っていない。
全線復旧に向けた昨年秋の国、沿線自治体、同社などによる検討会では、復旧費用概算として約22億円、同社負担額は約8億4000万円と試算された。土砂流入などは24カ所で確認され、13カ所が下泉駅から田野口駅の間に集中しているという。[[家山―千頭間で代行バス]] 家山―千頭間では、地元によるコミュニティバス(代行バス)を運行。バスは家山駅の列車到着などに合わせて設定されている。
また、井川線は鉄道施設点検のため接岨峡温泉―井川間での運転を見合わせており、千頭―接岨峡温泉間での折り返し運転を行っている。
観光誘客の面からも早期の復旧が待たれる。
ユニーク駅名人気スポットに 門出駅、合格駅
2020年11月、大井川本線五和―神尾間に「門出(かどで)」駅を開業した。緑茶・農業・観光の体験型フードパーク「KADODE OOIGAWA(かどでおおいがわ)」の新設に合わせたもので、物販・飲食施設も併設。蒸気機関車の車体、石炭の色をイメージした「SLソフト」が人気。
合格駅は、地元団体「チームおもしろ五和駅」の地域活性化活動に合わせて、五和(ごか)駅から改称。駅舎内に地蔵尊を安置して受験生などの合格祈願スポットとして有名になった。
検索キーワード:南海
203件見つかりました。
1〜20件を表示
-
2024.09.05 その他業種分類 コラム・企画類
墨滴 9月5日付
「令和の米騒動」である。店頭では「品切れ」「入荷待ち」の張り紙。棚には何もなく、あるのは電子レンジ、またはお湯で温める〝パック入りご飯〟。
-
2024.09.05 その他業種分類 コラム・企画類
交通ニュース・アイ 日中技術シンポ、高校生交流会…… 今夏の交通・鉄道界の動き追う
記録破りの猛暑に乱高下する株価、そして南海トラフ地震臨時情報と不安定要因が日本列島を駆けめぐった2024年夏。
-
2024.09.05 JR東日本グループ 予定・計画・施策
ジェイアール東日本企画 「ベビカル」駅たびコンシェルジュ新宿(東口)などに導入
ジェイアール東日本企画(jeki)は1日、ベビーカーレンタルサービス「ベビカル」を駅たびコンシェルジュ新宿(東口)、同池袋、同横浜、同成田空港、同空港第2ビル
-
-
-
2024.09.03 政府・省庁・鉄道運輸機構 予定・計画・施策
国交省 第3回「鉄道における自動運転の導入・普及に関する連絡会」
香椎線GOA2・5に試乗 国土交通省は8月27日、第3回「鉄道における自動運転の導入・普及に関する連絡会」を福岡県内で開催した。
-
-
2024.09.02 民鉄・公営・三セク 予定・計画・施策
銚子電気鉄道 南海から2200系譲受 昨年8月に次ぐ 2編成目
銚子電気鉄道は8月16日、南海電気鉄道から2200系1編成2両を譲り受けた。銚子電鉄は昨年8月にも南海から同系車両1編成2両を譲受。
-
2024.09.02 政府・省庁・鉄道運輸機構 インタビュー・会見
南海トラフ地震臨時情報 「取消補償は難しい」 観光庁秡川長官 影響の検証は必要
観光庁の秡川直也長官は、8月21日の専門紙会見で、南海トラフ地震臨時情報の発表に伴う旅館・ホテルの宿泊キャンセルなどの損失に関して、「直ちに補償することは現時
-
-
2024.08.29 JR四国 インタビュー・会見
記者会見 四之宮和幸 JR四国社長
南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の影響について―― 多客期と重なり、(一部列車の運休や減速運転で)お客さまにはご迷惑をおかけしてしまったが、従前から策定
-
-
2024.08.27 観光・旅行業 予定・計画・施策
南海トラフ地震臨時情報 宿泊キャンセル多発 観光に影響、運用に課題 「書き入れ時戻ってこない」
南海トラフ地震臨時情報が初めて発表され、夏休み、お盆休みの真っただ中の観光産業に大きな影響を及ぼした。
-
-
2024.08.21 JR共通(グループ) 記録・調査・統計
JRグループ旅客6社 お盆期間輸送概況 主要46区間前年比107%
JRグループ旅客6社は19日、お盆期間(9~18日の10日間、主要46区間の特急・急行輸送量)の輸送概況を発表した。
-
-
2024.08.21 JR東海 記録・調査・統計
お盆期間輸送概況 JR東海
東海道新幹線、前年比107%【JR東海】 東海道新幹線と在来線特急の利用人員は前年比107%の377万4000人。コロナ禍前の2018年比では92%だった。
-
2024.08.21 JR四国 記録・調査・統計
お盆期間輸送概況 JR四国
1日利用、コロナ禍後最高【JR四国】 期間中の利用人員は、瀬戸大橋線27万1400人(前年比107%、2018年比85%)、予讃、土讃、高徳の主要3線区計は1